2024-04-26特集
追悼 舟越桂 ~レクイエム:静謐なる美の体現者へ~

現代を代表する彫刻家、舟越桂が亡くなられた。
1951年、彫刻家で東京芸術大学教授の舟越保武の次男として盛岡市で生まれた舟越桂は、戦後を代表する彫刻家の父に育まれ、彫刻家を幼い頃より志しました。
1975年、東京造形大学彫刻科を卒業後、東京芸術大学大学院に進学し、1977年に北海道北斗市のトラピスト修道院から2メートル以上ある「トラピストの聖母子」の制作を依頼され鮮烈なデビューを飾ります。
1980年に製作した《妻の肖像》から木彫彩色の身体と半球の大理石をコーティングすることによって生み出された光る目をもつ人物像の様式を確立します。
1986年、文化庁芸術家在外研究員として英国・ロンドンに渡り、1988年、戸谷成雄、植松奎二と共に第43回ヴェネツィア・ビエンナーレの日本代表作家に選出され国内外で高い評価を得て、1989年、母校東京造形大学の客員教授に就任。
1992年、ドクメンタIX(ドイツ・カッセル) 第9回シドニー・ビエンナーレに出品し、国際的な名声は確固たるものとなりました。
2006年からはそれまでの具肖像から脱却した幻想的な両性具有像「スフィンクスシリーズ」を展開していきます。
2011年には紫綬褒章受章しますが、2024年3月29日、肺がんのため死去。72歳でした。

振り返ってみると、舟越桂の人生は日本初の「現代彫刻家」の人生だったと言っても過言ではないでしょう。
西欧的な具象彫刻やアカデミズムの世界から距離を置きつつも精力的に作品を発表し、「彫刻家」として自立し、国際的な評価を得ます。
コマーシャルな面でも立体、ドローイングともに多くの書籍の装丁や挿絵に採用され、美術業界以外からの知名度も非常に高く、幅広い層のファンに愛された作家でした。
晩年にはパブリックアートの制作や積極的な文筆活動も行い、まさに昭和、平成、令和の現代日本を生きた偉大な彫刻家であり、温かい人間性とジャンルを問わない活躍が多くの次世代作家たちに影響を与え、憧れと目標になったことは言うまでもありません。
「スフィンクスシリーズ」をはじめ彫刻作品は木彫りの質感と独特の彩色が相まって奥深い精神性と舟越桂ならではの格調高さを湛えています。
また、自ら彫刻の設計図と語るドローイングは最も舟越の脳内を直接的に反映する媒体であり、木炭で描かれた陰と陽の画面は彼の深い洞察を伺わせます。
版画作品では彫刻という物理的制約から開放された自由闊達な幻想世界が展開されており魅力的です。
本企画では、舟越桂による、ドローイングと版画作品を中心に作品にコメントを添えてご案内いたします。