2005-07-11日本美術そうだったのか通信
Vol.55 ヤフオク登場・愚庵その2

□■□■  「日本美術そうだったのか通信」 Vol.55
発行 有限会社アートオフィスJC・秋華洞
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<本マガジンの説明>
日本美術の鑑賞界のホットニュース、古今国内東西の作家のエピソード、美術業界
裏話など、日本美術をより楽しむための情報をお届けします。
アートオフィスJC・秋華洞提供。
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おはようございます。

先週は、発行が間に合わず、失礼致しました。
そのかわり、今回は、月曜の朝、スッキリと、お届けしております。

そして、初めての方、日本美術の楽しい世界へ、ようこそ。
私と一緒に、魅惑わくわくの世界へ、探検しましょうね。

ちょっと今日はお知らせです。

Yahoo!には「ヤフーオークション」略して「ヤフオク」というものがあ
り、日々おそろしく大量の商品がやりとりされているのはご存知のとおりです。

実は、このたび、ここの「美術品購入ガイド」というところで、私のインタビュー
記事を掲載していただきました。

http://special.auctions.yahoo.co.jp/whatshot/antique/artguide/

私としては、この仕事をはじめるにあたって、ヤフーオークションへの出品を
検討はしてみましたが、参加を見送っておりました。

何故なら。

こと、美術品に関しては、怪しげなもののあまりの多さに、ちょっと足を踏み
入れるのがためらわれたことと、かなり低額からのビッドからはじめないと、
入札が入らないことを考えると、高額商品を扱うのに適切な場所ではないよう
に考えたのです。

ところが、ひょんなことで、こういう形で関わることになってしまいました。
この機会にヤフオクにも参加するべきかどうか?

検討中です。

それは兎も角、今回、明らかに「美術商」として未熟な私にでも、こうした企
画に、声をかけていただいたのは、このメールマガジンをお読みいただいたの
がひとつのきっかけのようです。なんとなく高嶺の花、というイメージの美術
の世界にいながら、エラソーでない口調が新鮮と思っていただいたそうです。

そんなふうに感じていただけるのは、とても嬉しいです。だって、美術、面白
いんですもの。もっと多くの人に知って欲しい。わかりやすく紹介したい。

一方で、このメルマガ、お察しかと思いますが、下調べがかなり必要ですので、
美術商の日常の中に入れ込むのは実はチト大変です、ハイ。ですが、ともかく
も継続は力なり、ということで、少なくとも10年は続けたい、と思っておりま
す。

そうそう、ついでに、本メルマガ、「メール」という形にこだわらず、郵送や
FAXでのお届けも予定しております。ご希望の方はこのメールへの返信の形
で、

FAX希望:FAX番号 氏名
郵送希望:住所 氏名

をお伝えください。あるいは、知人友人、ご家族をご紹介ください。ご紹介い
ただいた方には、粗品を差し上げます。まだ、FAX版、郵送版は、準備中で
すが、いずれにしましても、発行の準備ができましたら、ご連絡差し上げます。

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今週の入荷情報
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■今尾景年『蓬莱僊島図』 (いまおけいねん・ほうらいせんとうず)
http://k.d.cbz.jp/t/h4vn/40650rz0d8qs9ox4l7

気品があります。

明治・大正期の京都の作家、今尾景年の、慶事掛け、いわゆる「目出た掛け」
です。

画面の中に、松竹梅が揃って、鶴があって、日の出がある。テーマは「理想郷」
蓬莱山(ここでは島。僊島とは仙島、すなわち聖なる島。)。駄目押し的に目
出度いものが並んでいますが、こうした図はハレの日に使う需要がある
ため、非常に多くの作家が書いています。

まず、「蓬莱」について。

「蓬莱(山)」は、横山大観(よこやま・たいかん)や、富岡鉄斎(とみおか
・てっさい)が好んで描いた画題ですが、これは理想郷の代名詞です。神韻縹
渺(しんいんびょうびょう)たる山水の霞の向こうに、理想の国が見える、と
いう構図が彼らの作品によく見られます。富士山がからむところも共通してい
ますね。最高の境地、を表現する一種の媒介として、かかれることが多かった
ように思います。もちろん両巨匠に限らず、古来の中国絵画から、連綿と描き
つがれた画題です。

松竹梅、いうまでもなく、日本の代名詞といってもいいテーマでありますね。
いずれも寒さに耐える植物種なので、慶事にふさわしいものとして、ずっと使
われてきました。

鶴は長寿の印、太陽は初日の出を想起させるとともに「昇運」を意味するでしょ
う。

正月・結納、結婚記念日、そのほかどんな慶事にも使えるというサービス精神
旺盛なる掛け軸であります。

こうした松竹梅・鶴亀などの画題は、江戸期から昭和にかけて、あらゆるラン
クの絵描きが描いたものなのでしょう、私の記憶に新しいのは、今年の4,5
月に京都国立博物館にて大入り好評(ホントです)のうちに行われた曾我蕭白
の展覧会にも、「松竹梅、鶴亀に布袋さん(だったかな)」のテーマの掛け物
が出品されていました。とにかく必ずヒネリ・反骨を二重三重に効かせないと
気がすまない江戸期「奇想」の作家、蕭白ですが、彼でさえ、このテーマで描
いているのです。おだやかなユーモアを感じさせて好ましい作品でありました。

ひるがえって、本作を見ますと、まさに神仙たる島の風景に、非常に丹念に海、
松、鶴が描かれて、荘重たる慶事がけとして、非常にまじめに製作された作品
です。

なんといっても渋く気品があります。

景年はこうした画題が得意だったのか、同様の構図を当店でもすでに一点扱い
ました。

慶事がけではありますが、全体に抑制したトーンでまとめられていますので、
お目出度い席にこだわらなくとも、さりげなく「昇運」の印としてかけられて
もイケルのではないでしょうか。(ピカピカに描いた機械表装のメデタがけと
は違って、安っぽくないので、誰に見せても誇れるものです。)

状態は「若干のシミあり」としていますが、この時期(おそらく明治末期)の
作品としては、状態は悪くないといっていいでしょう。

今尾景年『蓬莱僊島図』
絹本着色軸装
本紙123.5×51.1 cm 総丈217.5×64.6 cm
若干のシミあり
落款・印・共箱(二重箱)
http://k.d.cbz.jp/t/h4vn/40651rz0d8qs9ox4l7

☆作品は弊社画廊で御覧になれます。作品はそのもの一点限りですので、購
入をご希望される方はお早めにご連絡下さい。
<弊社開廊時間>
平日・土曜 10:00-18:00
日曜・休日閉店
(各作品は、倉庫在庫、展覧会貸し出しの場合もありますので、なるべく事前
にご連絡を。)

TEL 03-3569-3620 or 03-3569-3990
東京都中央区銀座6-4-8 曽根ビル7F
弊社へのアクセス http://k.d.cbz.jp/t/h4vn/40652rz0d8qs9ox4l7
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さて、お約束の愚庵の特集です。
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人生は美しい 天田愚庵 その2
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天田愚庵の生涯を追っていくと、切なくなります。

想って、想って、想って、かなえられないその願い。そして、かなえられない
まま、その想いを静かに胸に沈めて死んでいった人生。

・・・だけど、人生は美しい。

そういう、思いもどこからか湧いてきます。あるいは、切なさに貫かれている
からこそ、彼の人生は美しかったのかもしれません。そしてもちろん、切なさ
があるからこそ、美しい詩歌を残していったことは疑いがありません。

彼は、歴史の理不尽に切り裂かれ、孤独な出自を背負いながらも、友を得て、
人生にいくつかの花を咲かせるが、どこか空しさを心に沈めて(あるいは受け
入れて)この世を、去っていったように思います。

そうした意味では、私は、赤穂浪士の一員として若くして散った堀部安兵衛の
人生が重なって見えたりもいたします。

山岡鉄舟に見込まれ、清水次郎長の養子となり、壮士、旅の写真家、開拓の現
場監督、新聞記者を経て禅僧となり、正岡子規にとっての、兄貴分ともなった
万葉派歌人、天田愚庵の物語は、明治・戊辰の年(明治元年)から始まります
・・・・・。

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雨が首筋に落ちた。

少年は目を覚ました。

「しまったッ」

あたりには小隊がいない。不覚にも、休憩をとった農家で、眠りこけてしまっ
たのだ。

軒先を借りていた、百姓に味方の行き先をたずねる。

「何でも閼伽井獄(あかいだけ)に向かうとおっしゃっていました。はや、夜
も明けましょう。あなたも敵に見つからぬよう、お急ぎなさい、なあに、じき
に追いつけましょう。」

しかし、もう駄目だ。

官軍においつめられ、藩は自ら城に火を放った。逃げ延びて一里。仲間に追い
つこうにも、激戦に体は疲れ果て、おりからの雨に冷え切って、15歳の少年
の体力は如何程も残されていない。

このままでは捕虜になる。

少年は決然として、枯柴の上に座り、短刀を抜いた。

百姓はあわてて飛び掛り、短刀をねじりとった。

「なんというご短慮を・・・!」

「いや、死なねばならぬのじゃ。もしも敵方に捕らえられたら、ご両親や味方
の衆に申し訳が立ちませぬ。」

少年は口早につづける。

「死なせて下され。わしは甘田久五郎と申し、今年15歳に相成ります。いつ
か、誰かがここへ尋ね来たならば、この地で果てたとお伝え下さい。ここに肌
付の金がございますゆえ、なにとぞ、敵に見つからぬよう以外の始末をお願い
申し上げます。」

少年は短刀を取り返そうとするが、百姓はそれを制して、

「何と気の弱いことをおっしゃるかな。若い御身ゆえ、さぞかし疲れているこ
とであろう、私が閼伽井獄までの近道を案内して差し上げましょう。」

勝海舟と西郷隆盛の会談で、江戸城は無血開城を果たし、政権は幕府から事実
上、薩長を中心とする新政府に移った。だが、会津藩を中心とする東北諸藩の
勢力は、新政府軍との対決を選んだ。

甘田久五郎、のちの天田愚庵の属する小藩・平藩(たいらはん)は、あわれに
も地政学上、奥州列藩の最前線となり、怒涛の歴史の奔流にただただ流される
運命にあった。だが兎にも角にも戦うしかなかった。

※平藩(たいらはん)は、奥州磐城(おうしゅういわき)地方、現在の福島県
の藩。

一方、久五郎は、まだ元服していなかった。兵役の義務もない。だが、兄が政
府軍に対抗する平藩士(たいらはんし)として出陣した。

黙ってみていられなかった。

お前は、唯一残った男子として、一家の支えとなるのだ、家にいてくれ、とい
う、母の願いを振り切り、すでに隠居した父と妹に別れを告げて、急遽、元服
を済ませ、出陣した。

「久五郎。久五郎。」
「あっ、兄上・・・・。」
戦火の狭間で、兄弟は再び合間見えることができた。少年は兄の胸でしばらく
泣いた。

「兄上、お父上たちのご消息について何かお聞きになっておられませんか。」
「いや、お前にこそ、それを聞きたいと思っていたのだ。」

平城の落城に伴って疎開した城下の民衆たちのなかに父母、妹はいるはずだっ
た。しかし逃げそこなえば、敵軍に皆殺しにされることは珍しくない。

ところが、兄弟に両親を探す余裕はなかった。兄・善蔵は前線への転戦を余儀
なくされ、久五郎は落ち延びた女子供老人を警護しながら北へ退避した。

やがて奥州の戦火は止んだ。兄弟は故郷で生きて落ち合えるが、父母は、妹は、
行方が杳としてわからなかった。

明治四年、天田五郎と改名した久五郎は、18歳になった。学問を続けるとと
もに、筋骨たくましい精悍な青年となった五郎は、星雲の志を持って、東京に
出た。

片時も父母の行方のことは忘れることがなかった。立志の後、諸国を巡り、何
としても父母にめぐり合う。

それが彼の願いであった。そしてそれが、彼の一生を貫く願いとなる。

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今回は小説風に書いてみました。このペースだと一年くらい!かかると思いま
すので、多分、文体は変わっていくでしょう。

激しい熱情と厚い人情を持った青年、五郎=愚庵は、優れた人物に出会う幸運
を得ながら、一生をつらぬく、家族への「旅」を続けることになります。

最初の出会いは、誰でありましょう・・・・・。

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参考リンク:戊辰戦争
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%88%8A%E8%BE%B0%E6%88%A6%E4%BA%89

今回の原稿は主に
「堀浩良『歌人 天田愚庵の生涯』同朋舎」からの引用と翻案によっています。

そのほかの参考書
中野菊夫『天田愚庵 その歌と周囲の人々』 至芸出版社
松尾心空『歌僧 天田愚庵【巡礼日記】を読む』すずき出版

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ミニミニニュース

ただいま、カタログ誌『秋華洞』第二号を準備中です。
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『日本美術そうだったのか通信』は、読者の皆様との交流が原動力となって進
んでいます。ぜひぜひ、あなたのご感想、ご意見をお寄せください。

お返事は必ず書きます。どんな些細なこと、疑問、連想、なんでも結構です。
誤字脱字のご指摘も歓迎です。

あ、そうだ、前々回のふりがな間違いの発表。
陸羯南(くつがつなん)
としておりましたが、
陸羯南(くがかつなん)
でした。訂正してお詫びいたします。
参考URL 「日本美術そうだったのか通信 Vol.53」
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