2019-10-26日本美術そうだったのか通信
Vol.394 『We Love 暁斎』展のご案内と河鍋暁斎《素戔嗚命の九頭龍退治》によせて【その1】
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『We Love 暁斎』展のご案内と河鍋暁斎《素戔嗚命の九頭龍退治》によせて【その1】
~作品タイトル苦心してます~

さて、11月8日(金)から17日(日)まで、弊ギャラリーにて
河鍋暁斎作品と暁斎をオマージュした現代作家作品を展示する
『We Love 暁斎』が始まります。

会期:2019年11月8日(金)〜17日(日)
会場:ぎゃらりい秋華洞
時間:10:00〜18:00
備考:会期中無休 入場無料

詳細はこちらからどうぞ。↓↓↓
https://www.syukado.jp/exhibition/we_love_kyosai/

カタログ61号の表紙となりました暁斎の《素戔嗚命の九頭龍退治》の
掛軸も展示いたします。この一幅は美術館ピースと言っても過言ではない、
大胆にして繊細な描きぶりの逸品です。
その他、《鍾馗・美人・鬼》の三幅対の掛軸も面白く、必見です!

さらに、暁斎をオマージュした現代作家の新作もギャラリーに並びます。
●これぞ暁斎の名画《地獄太夫》をテーマとして妖艶な美女を情感たっぷりに
描ききる岡本東子。絢爛豪華な打掛の描写にもご注目ください。
●何でも描ける、さすが“暁斎”!と言わんばかりの敬愛が詰まった
平良志季の《We Love暁斎》。
影響を受けた作家に挙げるほど暁斎好きを公言する森謙次のユーモアたっぷりの
根付《幇間》とサンゴを素材とした《猫又》。
自由自在なドローイングで暁斎の世界観を鮮やかに蘇らせる木原千春の
《線を捕まえる猫図》― 河鍋暁斎 蛙を捕まえる猫図より、
●ますます技術に磨きがかかる若き釜師、江田朋(江田朋哉あらため)が
茶の湯に落とし込む暁斎の奇想の世界。飾って良し!使って良し!

実は、まだギャラリーに届いていない作品もありまして、スタッフも現物を観るのを
ワクワクドキドキで待っています。
もちろん、これらの作品は会場でご購入いただけますので、そちらも要チェックです!
銀座も秋の彩り、銀ブラも楽しい季節でございます。
芸術の秋、そして銀ブラを楽しみに、ぜひご来廊くださいませ!

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お次は、《素戔嗚命の九頭龍退治》によせての「そうだったのか」をお送りします。

副題としまして…、~作品タイトル、苦心してます~といった一話でございます。
企画展でもメインの一つでもある《素戔嗚命の九頭龍退治》と題したこの一幅。
実は本作の箱には堂々と「山田之大蛇」と書かれているのです。
ではなぜ「山田之大蛇」とそのままタイトルにつけなかったのか?は後から
述べるとして、まずは、「ヤマタノオロチ」と読むだろうこの「ヤマタ」の部分に
「山田」と漢字をあてたかについて考えてみましょう。

改めてよく大蛇をご覧ください。企画タイトルのデザインの右部分です↓↓
https://www.syukado.jp/exhibition/we_love_kyosai/
もしくはちょっと小さくて見づらいですが、最新カタログの表紙から↓↓
https://www.syukado.jp/catalog/
描かれた大蛇の長い首は八又に別れているわけではなく、頚椎に沿って複数の頭が
連なる姿で描かれているのがわかります。
「ヤマタノオロチ」といえば「“八岐”大蛇」と漢字表記したいところですが、
このオロチの首は八方向に分岐しているわけではないため、
あえて「“山田”之大蛇」としたためたのであろう箱書には配慮のあとが伺えます。

加えて、「山田」と書いたのには、これはダジャレや適当な当て字ではなく、
信州(長野県佐久市)には素戔鳴尊がヤマタノオロチを討った際、
オロチの魂が鳥になってこの地に飛び石に宿ったと言われる蛇石明神を祀った
「山田神社」があることに由来していると思われます。
この土地はヤマタノオロチにちなんで、「山田」と名付けられたという話や、
山田神社の蛇石信仰は上州一体にまで伝わって、参拝者で賑わったという
伝えもあることから、「山田」の字と八岐大蛇には深い関係性があるようですね。
(昔は同じ音なら、いろいろな漢字を当てて表記していたという側面もありますが…)

そうなると、この箱書きの人物はなかなかの知識人…!?
しかしながら、この箱書きの字体からみるに暁斎自身の墨書ではない
(つまり共箱ではない)と考えられます。
とすると、この堂々たる《山田之大蛇》も正式な作品タイトルとは言えません。

ところで、暁斎の作品は共箱でないことが多いかと思います。
スタッフ個人的な意見ですが、暁斎のその絵画スタイルや、性格、制作の速さ的に
掛軸に仕立ててお納めするというよりは、まくり(本紙のみ)の状態で
仲介人や客や知人に作品を渡していることが多いからではないでしょうか。

さて、作家の箱書きといえば、作者本人以外には、多くは弟子や息子、
娘(少ない)、または孫などが認めたものがあります。
さらに、その他の親族、画家の友人知人、同分野の有識者や研究者もあれば、
関係性不明ですが他分野の有名人や歴史に名を残す富豪や実業家、
さらに元所有者といった、もうほんとうに誰だかわからない人物の箱書もあります。
表記の仕方には「〇〇極」「〇〇鑑」「〇〇識」「〇〇観」といった感じに、
〇〇には箱書きの人物名が入り、押印されていることが多いのですが、
さて今回の作品、その署名がありませんので、いったい誰が箱書きをしたのやら…??
残念ながら情報が少なく、突き止めることできませんでした。
この部分、実はかなり大切で、できる限り突き止めて、カタログには掲載するように
努めているのですが…これについては無念でなりません。

さて、作品タイトルに戻りまして。
普段我々は、画廊がむやみに作品の名付けるのは憚られるため、
また元の持ち主を尊重して、よっぽどのことがない限り、箱に墨書された
タイトルをそのまま掲載することにしています。
それは他の美術商さんや画廊さんや研究者さん、もちろん美術館さんも
そうではないかと推察します。
なぜなら、今作品を見ている私達より、その箱が作られた時、そして箱に
何らかの墨書をされた時のほうが、作品が描かれた年代に近いからなのです。
そして、その時間と物理的な移動遍歴の違いによって、作品を引き継いできた
人の数が今より確実に少ないはずだからです。
人手に渡る度に情報が失われてしまう可能性が高まるとすれば、
今日の私達より、過去の箱書きの人物のほうが、多くの情報とともに作品を

愛でていたかもしれません。
今は失われていたとしても、箱書きした人物や、家族のみに伝わった話や、
弟子にしかわからないモチーフや来歴など、過去には知り得た情報もあったでしょう。
その情報をもとに箱書を認めた可能性がわずかにでもあるのなら、
私達はその痕跡を少しも消したくないのです。
そして、不用意に付けた題名が、ときに独り歩きして、あたかも作家自身が名付けた
もののように後世に残ることは、誠実でないと考えているからなのです。

ですが、本作《素戔嗚命の九頭龍退治》は箱書とは違うタイトルに変更して
カタログに掲載することにしました。
もちろんスタッフの勝手気ままにタイトルを変えるわけではありません。
作品研究を進めるにあたって、動かしがたい事実が見つかったときに
私達は作品の真意を未来に引き継ぐ責任を負って、この決断をいたします。

と、少々重々しく書いてまいりましたが、実は本作で言えばそれほど苦渋の決断を
したわけではなく…、単純に画題を同じくすると思われる暁斎の別の作品が、
大英博物館に収められていたため、そこからタイトルを拝借することにしたのです。
画題が同じ、もしくは似ているからといって必ずしもタイトルが同じというわけでは
ありませんが、この作品が描かれた背景も含めて、本作を大英博物館蔵の作品と
同名にいたしました。

長くなってまいりましたので、続きは次のメルマガで、
《素戔嗚命の九頭龍退治》の制作背景についてご案内したいと思います。

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