2018-10-26日本美術そうだったのか通信
Vol.385 アート台北2018に出展中!&難しくて楽しい伊藤晴雨の世界【その2】

まずは、秋華洞 参加中のアートフェア情報から。

秋華洞は本日から開催の
【ART TAIPEI 2018】に出展しております。

参加作家は、池永康晟、岡本東子、三嶋哲也、鈴木博雄、北川麻衣子、服部しほり
柿沼宏樹、中莖 あかりの総勢8名に加えて、浮世絵や藤田嗣治など秋華洞らしい
作品も加えて展示中です。

【会期】10月26日(金)〜29日(月)
【場所】Taipei World Trade Center
※時間等はアート台北2018公式サイトでご確認下さい。
http://2018.art-taipei.com/taipei/

Facebook や Twitter でもフェアの様子をお伝えしています。
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https://twitter.com/syukado

是非、ご注視くださいませ!

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さて
■今回の「そうだったのか!」━━━━━━━━━━━━━・・・・・‥‥‥………

前回に引き続き、「難しくて楽しい伊藤晴雨の世界【その2】」をお送りします。

今回はカタログvol.57の伊藤晴雨《瓢箪から駒》から、
カタログスタッフが、伊藤晴雨作品を研究を、いかに悩みつつ楽しんで
研究をしているのか、(お恥ずかしながら)ご紹介いたします。

こちらのお作品をご覧になりながらお楽しみくださいませ。

https://www.syukado.jp/list/ito_seiu/A2-93-387.html

この作品、入荷時に箱書きがなかったため、
正確な画題がわからなかったことは前回メルマガにて申し上げた通り。

この中央にデンっと描かれた「瓢箪から駒」はわかりやすいものの、
そのほか瓢箪の周りに描かれた着物姿のモチーフ達、
これらの題材は一体なんなのでしょうか。
「瓢箪から駒」と同じ様に「ことわざ」でくくったモチーフでしょうか…。
と、悩み始めた編集スタッフが本紙の謎を解決(?)していく過程をお送りいたします。

では、作品を見ていきますと、
上部に描かれた三人は火に鉄瓶を掛けて手には赤い杯を持っています。
その下、手足が生えた蔵(?)は徳利片手に上機嫌(?)、
右には角樽を下げた裃姿の男が描かれて、
本紙の下部には赤髪の人物(?)に大きな盃が振る舞われ…と確認していきますと、
どうやらこの作品に描かれているモチーフの共通点は「お酒」……??と、
まずはとりあえず、一つあたりを付けてみるところから始めます。

さらによくよく近づいてみますと、

【左下】赤い髪、青海波模様の袴をつけて寝転んだ姿は、
赤い装束姿ではないにしても、赤頭と傍らの柄杓から、
能の演目である五番目物(主に人間以外の異類が登場する演目)のうち『猩々』、
そのシテである酒好きの精霊「猩々(しょうじょう)」のすがたでしょう。
着物に見られる青海波も、水中から登場し、「涛陽の海の中に住む猩々」
と名乗る役どころ通り、水に掛けて、能の『猩々』でも袴などに見られる模様です。
孝行者の酒売りに、いくら汲めども尽きない酒壺を与える猩々。
ほろ酔いで舞い戯れては酒のめでたさを讃える祝言能です。

次に、【左の中央】に描かれた着流し姿のカラスに注目。
手に持っている帳面には「吉原細見」の文字が見られます。
(リンク先の画像では見えないですね、すみません)
『吉原細見』とは、江戸から明治にかけて発刊されていた吉原遊廓のガイドブック。
「吉原」に「カラス」ときて思いつくのは、そう、落語の『明烏』!!

『明烏』は、悪所遊びとは一切無縁の堅物の若旦那が、
それを心配する父親の差金で(現代で考えると、とんでもない父親ですが…)、
お稲荷詣でと騙されて、遊び人に吉原に連れて行かれる顛末が語られる滑稽譚。
晴雨の時代では、八代目桂文楽の得意ネタとして知られていました。

題名に『明烏○○』とついた作品は、明和年間(1764〜)から幕末にいたるまで、
浄瑠璃、歌舞伎、新内節、清元節にと、様々な芸能分野で数多く作られました。
ですから、一般大衆には大変馴染み深い題材だったのです。
実はこの物語、明和3年(1766)に吉原の遊女美吉野と、人形町の呉服屋の
若旦那伊之助が、隅田川に身を投げた実際の心中事件が元になっています。

さて、題材が『猩々』『明烏』だとすると、この人物(?)達は
能や浄瑠璃、歌舞伎、落語などの登場人物を表しているのでは??と、
「酒」に続き、2つ目のあたりを付けてみます。

舞台や演目に注目してからはモチーフ探しも軌道に乗りまして、

【左中央】で目隠しをして、首元に扇子をさした人物。
羽織には「二つ巴」の家紋が見えます。
「二つ巴」といえば、『忠臣蔵』の大石内蔵助!!

『忠臣蔵』を元にした演目には浄瑠璃や歌舞伎『仮名手本忠臣蔵』がございます。
その七段目「祇園一力茶屋の場」には、大石内蔵助(劇中は大星由良之助)が
仇討ちの本心を悟られまいとして、祇園で遊女を集めて酒宴を開き、
放蕩に明け暮れている振りする一場面があります。
泥酔した様子で、目隠して中居たちと鬼ごっこする由良之助。
晴雨はその姿を描いたのでしょう。

ちゃんと襟元に扇子を挟んだ大石内蔵助(大星由良之助)の浮世絵ご紹介。
(↓↓「早稲田大学文化資源データーベース」さんに繋がります↓↓

国貞《仮名手本忠臣蔵七段目》

《仮名手本忠臣蔵七段目》

国貞《仮名手本忠臣蔵》

国周《大石由良之助 市川団十郎》

さて、その次は【右中央】おおきな斧を持った中腰の人物。
着物は緑地に白の「香の図」文様のように見えます。
特徴的な着物に、大きなマサカリといえば、
通称『関の扉』として知られる歌舞伎の演目『積恋雪関扉』に登場する、
坂の関の関守、関兵衛。この男、実は天下を狙う大伴黒主なのです。

(↓↓「早稲田大学文化資源データーベース」さんに繋がります↓↓)
三枚続のつなぎ目のところに大鉞が描かれてます↓
https://archive.waseda.jp/archive/detail.html?arg={%22subDB_id%22:%2252%22,%22id%22:%22165880%22}&lang=jp” rel=”noopener” target=”_blank”>豊国《積恋雪関扉 関兵衛》

右上のタイトル部分のこま絵に鉞が描いてあります↓
豊国《近江八景之内 関兵衛》

この関には雪の中で満開に花を咲かせた桜の木が立っています。
酔ぱらった関兵衛が、雪見酒の盃に映った星で占をすると、この桜を切り倒して
護摩札にして焚けば天下調伏の願いが成就するという吉相が。
喜び桜を切ろうとする関兵衛ですが、大鉞を振り上げると気を失ってしまいます。
そこに墨染と名乗る傾城の美女が現れて…。
関兵衛が自ら大伴黒主の本性を表す場面の、早着替えによる「見顕し」の演出も
人気の演目です。

その近く【右中央】で、後ろ向きで大盃を持ってる人物は、
大酒飲みで出世する『大杯觴酒戦強者(おおさかづきしゅせんのつわもの)』の
内藤紀伊守に仕える足軽、原才助こと、実は馬場三郎兵衛信人。
(↓↓「文化デジタルライブラリー」さんに繋がります↓↓)
「内藤邸書院酒宴」ブロマイド

三郎兵衛の隣に描かれているのは、棒の先にたんぽ(綿が入った布の包)を付けた
稽古用の「たんぽ槍」でしょう。
酒宴の席、酒の飲み比べのさなか、足軽姿の三郎兵衛を武士と見破り、
またその気性を気に入った井伊掃部頭が、自分の家来に召し抱えようとするのですが、
紀伊守がそれを断り、意地の張り合いから掃部頭と三郎兵衛が一騎討ちをすることに。
(紀伊守は武術が不得意なため、そのかわりに三郎兵衛が)
酔ってはいても腕の立つ三郎兵衛です。掃部頭が繰り出す「たんぽ槍」をいなして
無事勝利、という場面を想起させる小道具です。
三郎兵衛はこの活躍で紀伊守に千五百石で取り立てられることになります。
めでたし、めでたし。

と、5点のモチーフがわかったところで、長くなってまいりましたので
【次回に続く】とさせていただきます。

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◆◆まだカタログをご覧いただけていない皆様へ◆◆
もし、ご興味がございましたら、
お試しとして今回のカタログを無料でお届けいたしますので、
是非お問い合わせくださいませ。

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カタログの感想も、スタッフ心よりお待ち申し上げております。

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★更新情報★

・秋華洞スタッフブログ…
「岡本東子さん「暗がり」との再会」
…只今「アート台北」出品中の岡本さんの名作!と束の間の再開
https://www.aojc.co.jp/staff_blog/2018/10/09/post-1099/
「助六」…芸術祭十月大歌舞伎の演目です!
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・銀座の画廊で働く社長ブログ
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