2004-10-14日本美術そうだったのか通信
Vol.21 高山辰雄の世界その2 <日本美術そうだったのか通信>

□■□■  「日本美術そうだったのか通信」 Vol.21
発行 有限会社アートオフィスJC
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今日の一枚
□高山辰雄『映』
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いつもお読み頂き有難うございます。
アートオフィスJC 田中千秋です。

まだ天気のほうは晴れませんね。

今日は予告通り高山辰雄先生の世界についてもう少し書きます。

現存の先生ですので、呼称が難しいのですが、ここでは敬称を略して、高山、とさ
せて頂きます。

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高山の絵を見ると、瞬間、冷たい。

その後、じわじわと暖かさが伝わってくるような気がします。

あるいは、冷たい水に手を入れると、最初あつく感じる感覚の「逆」の感覚。

何故、なのでしょう。

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多分、ある種の普遍性、の様なものを、高山のどんな絵を見ても、探そうとしてい
る、露わそうとしているような気がします。

家族。
道。
宇宙。

絵というものの原初は、多分そこにあるものを人に伝える、ということから始まっ
たのでしょうが、やがて近世の日本画の主題の多くが、自分の外にある「お話」を
語り、近代、つまり明治以後もその余波で絵がかかれたのにたいして、おそらくハッ
キリと内面的そして普遍的な「物語」を語り始めた<最初>の日本画かもしれませ
ん。

高山は、江戸期に田能村竹田・直入、昭和に福田平八郎を輩出した大分県で生まれ
ました。

東京美術学校で松岡映丘に学び、1936年に卒業して、映丘門下の同人グループ瑠爽
社に参加しますが、やがて大戦に突入、戦後の日展に落選、戦後の困窮の中で画家
としても壁に突き当たります。

このとき山本丘人に勧められて読んだゴーギャンの伝記において、お金のために知
人や画商に絵を売り込むが、いざ絵筆を握ると「売り絵」の書けないゴーギャンの
矛盾する姿に感銘を受けて、次のように思ったそうです。

「それからは貧乏があまりこわくなくなったし、画についても、入選、落選、特選
とかをはなれて、多少自分というものがわかってきたような気がしました。もう色
でも形でも自分の好き勝手に描いてやれという覚悟も出来ました。」※1

やがて高山のテーマは、日常の周囲にあるものからはなれて、より根源的で詩的な
世界に、画題としては、「月」「道」そして「家族」「宗教」へと変遷していきま
す。

「ただ画が目的で生きているのではないと思うのです。もっと大事なことを考えて
おかないといけないような気が僕にはするのですね。」※2

本マガジン Vol.19 で触れた「たべる」で人間の生きることの根元を露わにして
見せた高山の画は、どこかでいつも人が生きてあることの不思議さ、あたたかさ、
哀しさ、そしてそれが、どこから来ていて、どこに繋がっているのか、という「問
い」が沈潜しているように思います。

高山の画にふれたときの一瞬の<冷たさ>は人の世で生きることの酷薄さを象徴し
ているようにも見えますし、あるいは、宇宙そのものの絶対零度の現実を表象して
いるようにも見えます。

しかしそのなかで必ずと言っていいほど、<家>があり、あるいは<道>があり、
または<家族>がわずかな温もりをジワリと伝えてきます。

高山の画は、たんに装飾的に美しい、ということをおおきくはみ出して、人生その
ものの味を、どこまでも静かに伝えてきているのではないでしょうか。

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高山辰雄「映」
紙本・着色  額装
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四角く丸く様式化された「道」と「森」の夜景の奥に、民家の灯りが見えます。そ
の家は自分もそこに帰るのかもしれない、そういう普遍的な<家>なのではないでしょ
うか。
そして高山の風景画に必ずといって登場する道は、ここでも画面手前と、画面右に
繋がっています。画面の<家>にも家族がいるのでしょうし、その道の先にも、私
やあなたの家族がいるのでしょう。あるいは、おおきく歴史を遡った家族もいるの
でしょうし、未来の「家族」もいるのかもしれません。

※1「高山辰雄展 日本経済新聞社発行 2000年」より引用。ただし、菊地芳一郎
編「現代美術かシリーズ1」より孫引となる。
※2 引用は同上。「巨匠を訪ねて」 日本美術78 1971年7月号より孫引。

高山辰雄についての参考リンク

富山県水墨美術館 高山辰雄−墨色の世界展
http://www.pref.toyama.jp/branches/3044/exh_0405.htm
康耀堂美術館
http://www.koyodo-museum.com/
小川美術館 高山辰雄展 −聖家族−
http://www.yayoigallery.com/current-exhibit/current-exhibit.htm

本日は読んで下さいまして有難う御座います。
また明日!

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