2004-10-13日本美術そうだったのか通信
Vol.20 真贋の森・ラグーザ玉

□■□■  「日本美術そうだったのか通信」 Vol.20
発行 有限会社アートオフィスJC
http://aojc.co.jp/
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いつもご購読有難うございます。
アートオフィスJC 田中千秋です。

台風が去ったというのに雨天曇天が続きますね。私の下の娘の運動会が先週末だっ
たのですが、延期につぐ延期のうえ、当日は、地面はドロドロ。父兄も出て何とか
乾かしてなんとか進めたものの雨がいまにも降り出しそうで、いやはやでした。

週末は、みなさんどうでしたか?

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だいぶ前のVol.11で触れた、松本清張『真贋の森』について報告します。

古美術業界を鋭く抉る!作品かと思えば、それほど衝撃的なものでもなく、むしろ
アカデミズムを巡る確執が中心となる「小話」という印象ではありました。

主流への階段を外された美術評論家が、審美眼の実力が本当はないのにも関わらず
文人画・南画の権威としてアカデミズムの中央に居座る、自分を陥れた教授を、大
規模な贋物文人画の売り立ての賛同者として仕立て上げる事により、社会的に葬り
去る事をもくろむのが大筋です。

この小説は作中にも登場する(別名で)昭和9年の「春峯庵事件」と昭和18-36年の
「永仁の壷事件」を足して、アカデミズム批判の味付けをしたような作品に思えま
した。

※春峯庵事件
偽の肉筆浮世絵を大量に仕立て、架空の旧大名華族の売り立てとして大々的に入札
会が催された事件。マスコミから疑惑の声が上がり、この売り立て目録に序文を寄
せた学者が汚名を着る事態となった。

※永仁の壷事件
重要文化財としていったんは指定された「永仁銘瓶子」が陶芸家加藤唐九郎の贋作
の疑いがもたれ指定を解除され、スキャンダルとなった。

参考リンク:「東西贋作事件史」
http://www.um.u-tokyo.ac.jp/publish_db/2001Hazama/07/7300.html

『真贋の森』は初出が昭和24年のようなので、「永仁の壷事件」自体は、前後関係
からみて、執筆の参考にはしていないのだろうとは思いますが、加藤唐九郎が、権
威主義への皮肉あるいは反抗として仕組んだらしいという事を考えると、永仁の壷
事件と、この小説の筋書きが何故か似ているところが面白いと思います。

あたかもこの小説が、永仁の壷事件の「予言」であるようにも思えます。

さて、『真贋の森』が面白いながらも、感銘を受ける、というところまで行かない
理由は、最後のオチのあっけなさでありました。主人公は春峯庵事件よろしく、非
常にうまく贋「浦上玉堂」を大量生産させ、架空華族を仕立て上げて入札会を企て
るのですが、折角育てた天才贋作作家が、ふとしたはずみに企みを同級生に漏らし
てしまい、売り立ては実行前にポシャってしまうのです。

美術業界の内情や、理不尽な権威主義のまかりとおるアカデミズムの描写など、よ
く取材していて、わくわくさせるのですが、残念ながら、物語はある日突然、終わっ
てしまいます。

売り立てが成功する、というお話にして、入札会や、そこで交わされる業者の会話、
マスコミや学会への反響など、丁寧に描写するとさらに面白かっただろうに、ちょっ
と残念な結末でした。

取材不足で書けなかったのか、連載が打切りになったのか、主人公が成功する筋書
きにすることに倫理的に抵抗感があったのかわかりませんが、物語としては突然の
シャットダウンに戸惑いを覚えました。

もっと長編にした別バージョンを誰か書くと面白いと思いますが、この物語の背景
となる社会の湿潤ぶりは、すでになくなって、良くも悪くも明るく乾いた現代の世
相のなかでリアリティを持った話にするには、全く別の筋書きにする必要があるだ
ろうとは思います。

ちなみに、先日、ある交換会で、「春峯庵事件」の実物の目録を見かけてしまいま
した。普通の入札会目録は割合あっさりしたものなのに、この目録はご丁寧にたい
そうな笹川博士の序文が載せてあって、いかにも胡散臭いにおいプンプンで、何故
こんなのに騙されたヒトがいるのだろうと思いますが、これは<後知恵>なのかも
しれませんね。。

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高山辰雄の世界その2をお届けする予定でしたが、「真贋の森」感想文、で終わっ
てしまいました。また明日にでもお届けします。
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<緊急入荷情報>
「ラグーザ玉」作品入荷しました。
http://aojc.co.jp/mail-magazine/20041013tama.html
ラグーザは滅多に出ない珍しいものです。静かないい絵です。日本にいた時代、軽
井沢の風景を描いたものだと聞いています。

※ラグーザ玉
1861-1939(文久元年ー昭和14年)
東京(江戸)生。日本女流洋画家第一号。
日本に洋風彫刻を教えに来ていたヴィンツェンツォ・ラグーザ(1841‐1927)に見
そめられ、イタリアに戻った夫が創立した工芸美術学校の副校長となり、創作の才
能を開花。生涯をイタリアで過ごす。

参考リンク
http://www2.rosenet.ne.jp/~shiba-e/guide2.html

本日は読んで下さいまして有難う御座います。
また明日!

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