2005-04-02日本美術そうだったのか通信
Vol.42 続・絵の大きさと値段

□■□■  「日本美術そうだったのか通信」 Vol.42
発行 有限会社アートオフィスJC・秋華洞
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<本マガジンの説明>
日本美術の鑑賞界のホットニュース、古今国内東西の作家のエピソード、美術業界
裏話など、日本美術をより楽しむための情報をお届けします。
アートオフィスJC・秋華洞提供。
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お元気ですか、アートオフィスJC・秋華洞の田中千秋です。

一昨日、父(弊社会長)が、オフィスでオイオイ泣いていました。

私は、そのとき弊社オフィスの下の階の旅行代理店でチケットの手配をお願い
していたのですが、弊社新人、猪山が「あのう・・・ちょっといいですか?」
と尋ねてきました。

誰か亡くなったらしい、と聞いて、心配になってオフィスにあがってみると、
その姿。

父は、その方の思い出を母と電話で語りつつ、感極まっている様子でした。

その方は、私もチラリ、とだけお会いしたことのある、父の長いつきあいの
あるお客様でした。

名品をドカン、ドカン、と購入される一方で、ひとかたならぬ豪傑とのこと
で、色々なエピソードに満ちた(具体的には書けません・・)方で、若き父
は、ご自宅へ呼ばれるたびに、

「まあ、いいから」

とにかく飲め、と、決まって終電がなくなって、泊まらざるを得ない時間まで
おつきあいさせられたような事を聞いておりました。また、夫婦でお邪魔して、
お世話になったこともあったようです。

それにしても私にとって少し驚いたのは、お客様とのつながり、というのは、
感情がそこまで極まるほど絆(きずな)が深くなることがあるものなのだ、
ということでした。

高価な美術品を、バカ、バカ、(※)と購入される方は、常人離れした人格の
人が多いのかもしれません。

(※)馬鹿じゃないです

「まーあの人はもうとんでもない人でな、」と父のお客様巡り武勇伝の、持ち
ネタとして、凄いお客様が何人かいらっしゃるのですが、その言葉の中には、
驚きと、尊敬と、深い親しみが隠されていること(次の日父は落ち込んだのか
午前中会社に出てきませんでした)に、私はあらためて気づかされました。

商人とお客様、というのは、お互いに、なんらかのメリットを与えあいなが
らも、あくまでビジネス上のつきあいのようにも思いますが、そうした中に
も人情の通い合う、関係がありうるのだと思います。

どんな仕事でも、皆そうだと思うのですが、仕事を通して、お客様と心のつ
ながりを持てるような間柄を作ることで、よりお互いの人生が豊かになる、と
いうことは素敵なことです。そんな商売がしたい、と、強く思います。

よろしくお願いします。

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今週の新入荷情報
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の前に、今月の表紙。
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先日ご紹介した中島千波先生の桜風景のリトグラフを掲載しました。ネット
の映像では表現し切れませんが、飾ると本当に華やかなものです。

実は、絵画の桜、は本物よりも、美しくなければならないと、私は思うので
す。あるいは、におい、風、空気、温度、そうしたものが、実物にはあるの
ですから、それらを含んだ実物を画像で十分に表現するには、実物の桜より
も美しくなければいけない。

この版画作品、結構、イイ線いってる、と思うのですが、如何ですか?
(価格は安くつけすぎたかもしれません・・・。)

■須田剋太『尽十方世界』(すだこくた・じんじっぽうせかい)
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昭和の産んだ「われ鐘」の思想家、無意識・無頓着の野生と知性、司馬遼太郎
の「街道を行く」の挿絵で有名な、洋画家・須田剋太の書です。

当店で採り上げている二作品は
http://k.d.cbz.jp/t/h4vn/40b2pny0c89u2i2wbs
今の所、書でありますが、須田剋太の本業は一応「画家」であります。

以前須田剋太については連載で特集しましたが、(以下その1-その4)
http://k.d.cbz.jp/t/h4vn/40b2qny0c89u2i2wbs
http://k.d.cbz.jp/t/h4vn/40b2rny0c89u2i2wbs
http://k.d.cbz.jp/t/h4vn/40b2sny0c89u2i2wbs
http://k.d.cbz.jp/t/h4vn/40b2tny0c89u2i2wbs

道元「正法眼蔵」にその作品世界は深く影響を受けています。

剋太じしんの書いた文章を読むと率直に言って殆ど訳が分からないのですが、
実は道元の言葉世界があまりにも当たり前のように、この画家の脳みそを支配
しているために、凡人にはその思想の中身が解読できないのです。

むしろ、言葉それじたいの呪術性のようなものに私は惹かれるのですが、そ
うかと言って、書に表わされている文章は、必ずしもわかりにくいものでは
ありません。

この作品には以下のテキストが書かれています。道元の「正法眼蔵」の一節な
のでしょうか。

尽十方世界是一顆明珠
逐物逐己逐己逐物未休

ちょっと試みに読んでみます。読みも意味も私がさしあたり調べたり、考えた
りしたもので、必ずしも正解ではありませんので、学問的な正確さについては
ご容赦をお願いします。

尽十方世界、是れ一顆の明珠(じんじっぽうせかい、これいっかのみょうじゅ)
逐物逐己、逐己逐物、未休 (ちくぶつちっき、ちっきちくぶつ、みきゅう)

「尽十方世界、すなわち、全宇宙は、ひとつの美しい宝物のようなものである。
物の世界を極めれば己(おのれ・自分)があらわれ、己を極めれば物の世界が
あらわれる。つまり、常に(未休)自分と世界は一体である。」

もうすこし砕けると、

「この世は美しい!私と世界はいつも一体だ!」

ということでしょうか。ただし田中流の解釈ですので、道元に詳しい方がいた
ら、訂正をお願いしまーす。

いずれにしても、剋太の書にいつも書かれていることは、それでいいんだ、自
分流でいいのだ、思い切り生きろ!と言っているように私には思えます。

ところで、この書の中央左下には色の付いたシミが出ています。表具屋さんに
調べてもらうと、油絵の具のようでした。

書に油絵の具?

おそらく、何事も荒っぽいであろう、剋太が、書を拡げて乾かしているそのそ
ばで、油彩画に筆をふるっているその時、絵の具が飛び散ったのではないでしょ
うか。このシミも、剋太らしい所業と思えます。

書も油絵も、一体だ!

☆作品は弊社画廊で御覧になれます。作品はそのもの一点限りですので、購入
をご希望される方はお早めにご連絡下さい。

<弊社開廊時間>
平日 10:00-18:00
土曜 10:00-18:00(ただし土曜日は都合により閉める場合がありますので、
事前にご連絡を。)

TEL 03-3569-3620 or 03-3569-3990
東京都中央区銀座6-4-8 曽根ビル7F

弊社案内図
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※平日にお越しの方には、当店自慢の美人秘書がお茶をお入れします!

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さて、今週の特集です。
連載中の、美術品の価格のお話です。

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「絵画・美術品の価格はどのように決まるのか」その3
大きさと評価の関係についての続き
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その1では、「絵の値段は、<感動>の市場性で決まる。」
その2では、「号数は、価格とは必ずしも比例しない。そもそも、号数は面積
と完全には比例していない。」ということをお話ししました。

(その1,その2については以下のバックナンバーをご参照下さい。)
http://k.d.cbz.jp/t/h4vn/40b2vny0c89u2i2wbs

さて、いよいよ号数、あるいは大きさ(面積)と価格の関係ですが、「その1」
でも述べましたが、まず、最初にもう一度原則として確認しておきたいのは、
「感動」と「面積」は比例するのか、ということです。

美術品の価格は、結局、美しいかどうか、それがどれだけインパクトを与える
かどうか、という事が、価格を決める大事な要素になると思います。

つまり「感動」です。

その「感動」は、大きさにやはり左右されるでしょうが、「比例」するもので
もないでしょう。逆に小品の密度に強い魅力があり、大作の粗雑さに辟易する
ことも、珍しいことではないと思います。

で、実態はどうか。

今度、父が書いた(もうすぐ印刷予定)「鑑定マニュアル」には、号数と価格
の一例として、次のような表を載せています。

0号 25万
SM(サムホール) 30万
3号 35万
4号 40万
6号 55万
8号 70万
10号 75〜80万
15号 100万前後
20号 120万

※標準絵画寸法表は以下のURLを参照して下さい
http://k.d.cbz.jp/t/h4vn/40b2wny0c89u2i2wbs

これは特定の作家を念頭に置いた価格でもなし、統計上の数字でもありません
が、長年の画商生活のなかで、「こんな感じ」が一般的、という数字だと思い
ます。

一応のリアリティのある数字、といは言えるかと思います。

ただし、もちろん、絵の値段は結局多くの売り手と買い手の関係の中で形成さ
れる物で、上記の表のような事が「決まり事」になっているわけでも何でもあ
りません。

それはともかく、ここで、価格を号数で割ってみましょう。つまり号あたり価
格ということになります。

0号は1号と殆ど同じ大きさですから、0号は「1」として

1号・・・25万
4号・・・10万
10号・・8万
20号・・6万

もともとの表は別段統計的な数字ではありませんので、この点にはエクスキュー
ズ(いいわけ)がつくとしても、号あたりの価格は、小さな作品に割高、大き
な作品に割安、につく傾向があることがわかります。

さらに、日本人の特性として、「小さなもの」を尊ぶ習性、および大きな壁を
持たない住宅事情も重なって、小品の号あたり価格を押し上げている点も見逃
せない点かも知れません。

また、一般に、発表価格、という号あたり価格は、10号程度(長辺53セン
チ)の作品の価格を念頭に置いているようです。ですので、それよりも小さな
作品は号数割高、大きな物は号数割安になるでしょう。そういう意味で、号あ
たり、という考え方が慣習的にオカシイ、とはここで言うつもりはありません
が、非常に誤解を招きやすい、ということは言わなければなりません。

※年鑑価格10万だから、この100号の絵は、1000万で買って下さい、
とおっしゃる恐ろしいお客さまがしばしば見えるのでアリマス。そういう物に
限って一万でもいらないようなものだったりして。。。

一方、画商と画家の画料の号あたり価格、というテーマもあるのですが、この
点は私は詳しくないので、ちょっとここではふれないで置きます。(勉強した
らお伝えできるかも知れません)

ところで。

絵の価格、というのは実は一瞬で決まります。

ある人が、「この絵がほしい」、と思ったとき、これは「幾ら」なら買いたい!

それが、その作品の仮の値段でしょう。

その思いが集積して、「市場価格」が決まるわけです。

この、ある人が、絵を見た瞬間に、心に「ズキリ」とする、衝撃度、その衝撃
度が「価格」という表現になり、その衝撃度を面積という尺度でもって非常に
大勢の人についてならすと、上のような数字になる。つまり、完全比例はしな
いが、ゆるやかに比例する。

そういうことではないか、と思います。

さらに。

絵は30号(長辺90センチ)を越えると、価格と号数の比例グラフは、かな
り伸び悩みます。下手をすると反比例、つまり安くなってしまいます。これは、
感動ということよりも、市場性を反映していると言えるでしょう。

つまり、バカでっかい絵は、飾る場所がない。保管できる場所がない。さらに
移動、納品にも時間がかかる。そうしたリスクを含んでいますので、巨大な作
品は、市場流通性、という意味では難しい扱いになります。

屏風、はそうした意味で、なかなか値つけが難しい物です。桃山時代の洛中洛
外図屏風など、数千万するものはザラですが、単にデカイだけの半端な江戸期
の屏風の値段は、極めて冷淡です。

たんにデカイだけのものは、嫌われてしまう。デカイ物には、デカイなりの、
よほどの充実度がないと、価格もあっけないほど安くなってしまう。

それもこれも、「感動の市場性」、もっとわかりやすく言えば、みんながほし
いかどうか、そして、そのものが幾つあるか、ということで割り切れば、美術
品の価格は、そう難しいものではないと思います。

(といいつつ、私などまだまだわからないものの方がずっと多いので、矛盾し
た発言でございます。やっぱり難しいかしら。)

(この項、誤記・誤解・曲解・偏見・凡ミスなどありましたら是非ご指摘下さ
い。また、感想もお待ちしておりマース!)

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
<ミニミニお知らせ>

今月四月半ば、世界経済の中心地、ニューヨークに行くことになりました!実
は私はじめてなのであります。NYは。

正直ビビッテます。

MoMAはじめ美術館や、画廊、そしてクリスティーズのオークション会場な
どを訪ねたいと思います。滞在は1週間足らずです。もしここを見てきてレポー
トしてくれ、こんなことには気をつけろ、などのご希望・ご意見がありました
らお寄せ下さいませ。

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主に日本の美術品・古美術品を中心に、幅広く取り扱っております。

近代絵画・現代絵画を軸とし、さらに、鎌倉・室町時代より、現代に至る
まで、あらゆる分野で活躍した画家・高僧・武将・文人・歌人・俳人の手に
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うぼん)を専門とし、その他、彫刻、工芸品、茶道具など、多岐にわたって
対応致します。

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