店主 田中千秋の美人画コラム
08 岡本東子 (おかもととうこ)

弊社で扱っている女性画家、岡本東子、中原亜梨沙がいわゆる「美人画家」であるかといえば、少なくとも彼女たちの意識として「美人画」を描いている、ということではあまりないだろう。

夢二や深水が描いていた「美人」は、商業的ジャンルが無前提に信じられていた無邪気で幸福な時代の産物だ。実は現代の「美人画」というのは、さしあたり美人画とでも言っておくもの、ということに過ぎない。しかし、彼女たちは人物を描きたい。そして女性を描きたい。それを売り出すためのさしあたりのパッケージとして「美人」という言葉を使っている。少なくともこの二人には言えることだろう。

岡本東子「果てを知らない-地」2014
岡本東子「果てを知らない-地」2014

岡本は、オトコから見たときの綺麗な女性を描きたい、とは思っていないという。女そのものを描きたい、女の生きる力を描きたいという。
大正時代の島成園などが暴いた女性の自意識が出た女性、たんなる飾りとして飾られていればよいとする女性から絵画世界が脱皮したのは、当時すでに出ていた女流文学とともに当然のことであったろう。岡本の世代はすでにそれから百年経って、女が女をどう表現するかの葛藤でもある。結局は綺麗な女が描かれていれば売れるではないか、という市場原理のなかで、女が女であることをどのように主張するのか。

彼女の画は紙本着色、まさに正統なる日本画方式で描かれる。だが、その線と造形は平面的ではなく、むしろ立体的だ。かつての日本画の持っていた抽象性よりも、彼女の画は重量感を選んだ。女たちは歩いたり身じろぎをしたりよろめいたりしながらどこか中空を見ている。彼女の画の女たちは重量を与えられて、語っている。女は綺麗なだけの生き物ではない。生きて意思を持っている。迷いながら、世界を生きる術を探っている。ほんとうの女像、というものがあるとしたら、岡本の世界はそれを描こうとしているのだと思う。

岡本 東子(おかもと とうこ)
京都生まれ。東京芸術大学大学院美術研究科日本画専攻修士課程修了。
日本画家。対象の本質を正視し、特に女性の内面を撫でるように丹念に描き出す。その筆力は、目に見えない温度や湿度、空気までも画面に写しこみ、幽玄な世界を作り上げる。濃密で不思議な吸引力を持った作品は観者を捕らえて離さない。
秋華洞店主 田中千秋プロフィール

秋華洞として二代目、美術を扱う田中家としては三代目にあたります。美術や古書画に親しむ育ち方をしてきましたが、若い時の興味はもっぱら映画でした。美術の仕事を始めて、こんなにも豊かな美術の世界を知らないで過ごしてきたことが、なんと勿体無い日々であったかと思います。前職SE、前々職の肉体労働(映画も含む?)の経験も活かして、知的かつ表現力と人情味あふれる、個人プレーでなくスタッフひとりひとりが魂のこもった仕事ぶり、接客ができる「美術会社」となることを目指しています。